定期報告における「既存不適格」の判断基準とは?項目の事例や対処法を解説

建物の所有者や管理者の方々にとって、定期報告(12条点検)は建築物の安全性を確保するために欠かせない重要な業務です。

しかし、点検を行う中で「既存不適格」と判断されるケースもあり、これが何を意味し、どう対応すべきかを理解することは大変重要です。

本記事では、定期報告における「既存不適格」の概要や具体的な判定項目、さらにその対処法について詳しく解説します。この記事を通して、定期報告で不安を感じる方々に少しでも安心を提供できれば幸いです。

建築物・建築設備の「定期報告(12条点検)」

まずは、建築物や建築設備の維持管理において必須の定期報告義務について、その内容を解説します。

建物の所有者・管理者に義務付けられる「12条点検」

「12条点検」とは、建築基準法第12条に基づいて実施される定期報告制度のことです。

建物の所有者や管理者は、一定規模の建物に対して定期的に専門家による調査や検査を行い、その結果を特定行政庁に報告する義務があります。この制度は、建物の劣化や機能不全を早期に発見し、事故や災害のリスクを未然に防ぐことを目的としています。

対象となる建築物・設備の種類や報告の頻度は、自治体によって異なりますが、多くは以下の通りです。

【特定建築物(学校、病院、劇場、共同住宅など)】

・調査・検査の名称:「特定建築物定期調査」

・報告頻度:3年ごと

【建築設備(非常用照明装置、排煙設備など)】

・調査・検査の名称:「建築設備定期検査」

・報告頻度:毎年

【防火設備(随時閉鎖式の防火戸や防火シャッターなど)】

・調査・検査の名称:「防火設備定期検査」

・報告頻度:毎年

【昇降機(エレベーター、エスカレーターなど)】

・調査・検査の名称:「昇降機定期検査」

・報告頻度:毎年

参考:東京都都市整備局|定期報告が必要な特定建築物・防火設備・建築設備・昇降機等及び報告時期一覧

ただし、報告頻度は建築の用途や規模、建てられたエリアによっても異なるため、各自治体で定められている報告頻度や時期を事前に確認することが大切です。

これらの調査・検査は、一級建築士や二級建築士などの有資格者で、12条点検実施に関する法定講習を修了・合格した調査員によって行われます。検査の結果は特定行政庁に報告され、建築基準法への適合性が確認されます。

報告の義務を怠った場合は法令違反となり、100万円以下の罰金が課されることもあるため注意が必要です。2回目以降の点検時期については事前に案内状にて通達されるのが基本ですが、管理者自身がしっかりと把握しておくことが重要です。

定期報告における3つの判定

12条点検では、点検結果が「指摘なし」「要是正」「既存不適格」の3つのいずれかに判定されます。

指摘なし:現行の建築基準法に完全に適合しており、問題がない状態。

要是正:現行基準に違反しており、修繕や改修が必要な状態。

既存不適格:過去に建築された当時の基準には適合していたが、現在の基準に照らすと適合していない状態。

特に「既存不適格」は違法ではないものの、現行の法基準に合致していないため、用途変更や増改築の際には特別な対応が必要となります。次の章から既存不適格について詳しくみていきましょう。

既存不適格とは?

ここからは、定期報告における既存不適格について、さらに詳しく解説します。

既存不適格の概要

「既存不適格」とは、建物が建築された当時の法規制には適合していたものの、その後の法改正により現行の基準に適合しなくなっている状態を指します。

例えば、昭和初期に建てられた建物が当時の耐震基準には適合していたものの、現在の耐震基準には不足しているケースがこれに該当します。

既存不適格に関する以下の条文をみてみましょう。

「(適用の除外)この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。」

引用:建築基準法|第3条第2項

条文を大まかにまとめると、「昔の規定によりつくられた特定の敷地や建物に、現行の基準を適用しない」という内容になります。これはそもそも文化財を保護する方針のもとに定められたものですが、管理者の負担を軽減する目的や、既存建築ストックの長寿命化を目指す国の方針も強く反映されているといえるでしょう。

既存不適格は、そのままの状態では問題視されないことが多いですが、増改築や用途変更の際には、現行の基準に適合するように改修が必要となる場合があります。

既存不適格のメリット・デメリット

既存不適格と判断された場合、建物の所有者・管理者にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。考えられる内容について紹介します。

【メリット】

既存不適格とみなされる建物や設備は、現状の使用を続ける限り、直ちに修繕や改修を行う必要がないという点がメリットです。また、行政からの是正指導を受けることも基本的にはありません。

建築当時の意匠を維持できる点も大きなメリットといえるでしょう。

【デメリット】

建物の用途変更や増改築を行う際には、現行基準に適合させるための大規模な改修が必要になるため、費用がかさむリスクがあります。

また、既存不適格の建物は市場価値が低くなる傾向があり、将来的に売却や賃貸を検討している場合は不利になることもあります。

既存不適格の具体的な判定項目の事例

既存不適格がどのように判定されるのか、具体的な点検項目をいくつか見てみましょう。

特定建築物定期調査

特定建築物定期調査では、学校や病院、商業施設など多くの人々が利用する建物が対象となります。

主な調査項目は、敷地内の通路や擁壁の状況、建物の外壁・屋上の劣化状況、建物内部の防火区画や床・天井の状況、避難施設や非常用設備の状況などです。これらが現行基準に適合していない場合、既存不適格として判定されることがあります。

【既存不適格として判定される可能性のあるケース例】

・エレベーター昇降路の防火区画に遮煙性能を有する設備がない

・特定天井に天井脱落防止の措置がされていない

・高さ1m以上の階段に手すりが設置されていない

・延焼のおそれのある部分に線入りガラスの窓が設置されている

建築設備定期検査

建築設備定期検査は、建物に付随する設備(給排水設備・換気設備・非常用照明装置・排煙設備)が正常に機能しているかを確認するものです。

例えば、古いビルにおいて給水設備が現行の衛生基準を満たしていない場合や、換気設備が適切に作動していない場合に、既存不適格とみなされることがあります。

【既存不適格として判定される可能性のあるケース例】

・非常用の照明装置が設置されていない

・3階建ての建物にもかかわらず排煙設備がない

防火設備定期検査

防火設備定期検査では、防火扉・防火シャッター・耐火クロススクリーン・ドレンチャーといった防火設備を対象に、劣化・作動状況を確認します。

これらの設備が設置当初の基準には適合していても、現行の防火基準に照らして不足がある場合は、既存不適格とみなされます。

【既存不適格として判定される可能性のあるケース例】

・防火扉の閉鎖力が基準値を超えている

・防火シャッターに危害防止装置が設置されていない

昇降機定期検査

昇降機の定期検査では、エレベーターやエスカレーターが安全に運行しているか、また非常時に適切に作動するかが検査されます。

古い昇降機では、耐震性能や非常時の動作が現行基準に満たない場合があり、その際には既存不適格と判定されます。

【既存不適格として判定される可能性のあるケース例】

・地震時等管制運転装置(P・S波センサー、予備電源装置など)が設置されていない

・かごの照明設備の照度が床面で50ルクス未満になっている

既存不適格とみなされた場合の対処法

管理する建物や設備が既存不適格の判定を受けた場合、どのように対処すべきなのでしょうか。是正義務の有無や、現行規定への適合が必要になるケースを解説します。

是正義務の有無

既存不適格と判断された場合、建物の所有者や管理者は必ずしも直ちに是正する義務はありません。

ただし、実質的には不適格な状態であるため、将来的な問題を未然に防ぐためにも、可能であれば是正を検討するのが賢明です。特に安全性や耐震性に問題がある場合は、早急な対応が必要になるでしょう。

現行基準への適合が必要なケース(用途変更、増改築)

既存不適格の建物を用途変更や増改築する場合には、改めて確認申請の手続きが生じるため、現行の建築基準法に適合するための改修が必要です。

ただし、増改築については建築基準法の緩和を受けられるケースがあり、規模や構造によっては現行基準に不適合な部分の是正や構造計算を行わなくても、一定の範囲で増改築が認められます。

なお、200㎡未満の特殊建築物における用途変更時の確認申請は原則不要であるため、「現行基準への適合も必要ないのでは?」と考えられそうですが、それは間違いです。避難設備や排煙設備などに関しては、確認申請を行わない用途変更の場合でも現行基準に適合させる遡及対応が必要なため注意しましょう。

まとめ|12条点検・定期報告なら、テックビルケアにお任せください

今回は、定期報告における「既存不適格」について解説しました。

既存不適格は、必ずしも直ちに是正を求める強制力のある判定ではありませんが、用途変更や増改築を行う際には現行基準に適合させるための大規模な改修が必要になることを理解しておきましょう。安全性や耐震性に脆弱性がみとめられる場合も、何らかの対処が必要になる可能性があります。

また、定期報告を怠ると行政からの指導や罰則の対象となるため、調査時期を把握したうえで、しっかりと対応していくことが大切です。

建物の管理や定期報告において不安を抱えている方は、ぜひ テックビルケア にご相談ください。

当社は、長年の経験と専門知識を活かし、定期報告の手続きをスムーズに進めるお手伝いをいたします。また、既存不適格と判定された場合も、対象の建物や設備に合わせた最適な対策をご提案し、迅速に対応いたします。

お見積・ご相談は無料です。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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