火災対策において重要な要素の一つである「消防設備点検」。しかし、「消防設備点検が義務づけられている建物がわからない」と悩む人も多いのではないでしょうか。
消防設備点検は、火災時の被害を最小限に抑えるためにも非常に大切です。
この記事では、消防設備点検が義務づけられている建物や点検の種類・頻度・費用相場などをわかりやすく解説します。
消防設備点検についての理解を深め、消防法が定める安全基準を知る機会にしてもらえると幸いです。
消防設備点検は、消防設備の設置が義務づけられている建物において、消防設備が適切に機能しているかどうかを定期的に確認するための点検作業です。消防法で実施が義務づけられており、点検結果は消防長、もしくは消防署長へ報告しなければなりません。
消防設備点検の目的とは?
消防設備点検の目的は、建物の火災による被害の抑止です。自然災害が多発する日本では、いつどのような火災が起きてもおかしくありません。火災を迅速に鎮火するためには、消防設備を万全な状態に整備しておく必要があります。
消防庁は、2023年に発生した火災被害を公表しています。
<2023年の火災被害>
火災の種類 | 件数 | 総死者数 | 負傷者数 |
建物火災 | 20,968件 | 1,201人 | 4,748人 |
車両火災 | 3,523件 | 105人 | 220人 |
林野火災 | 1,290件 | 8人 | 115人 |
船舶火災 | 58件 | 0人 | 21人 |
航空機火災 | 1件 | 0人 | 0人 |
その他火災 | 12,819件 | 186 人 | 627人 |
※2024年8月18日現在
建物火災の被害は他の火災に比べて桁違いの件数です。人命を守るためには、消防設備点検が欠かせません。
消防法で消防設備点検が義務づけられている建物
消防法では、主に3種類の建物に消防設備点検が義務づけられています。
- 特定防火対象物(延べ面積1,000平方メートル以上)
- 消防長または消防署長が指定した非特定防火対象物(延べ面積1,000平方メートル以上)
- 特定一階段等防火対象物ll
なお、延べ面積が1,000平方メートル以上の建物を消防設備点検する場合は、消防設備士などの資格が必要になります。建物の用途やサイズによって点検の必要性は変わるため、この記事で点検が必要な建物をチェックしておきましょう。
特定防火対象物
特定防火対象物は、火災で甚大な被害が予想され、人命に被害が及ぶ可能性が高い建物を指します。収容人員10人以上の場合は下記の施設です。
(6)項 ロ
⑴ 老人短期入所施設、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム(避難が困難な要介護者を主として入居させるものに限る。)、有料老人ホーム(避難が困難な要介護者を主として入居させるものに限る。)等
⑵ 救護施設
⑶ 乳児院
⑷ 障害児入所施設
⑸ 障害時支援施設、短期入所施設、共同生活援助施設(避難が困難な要介護者を主として入居させるものに限る。)
(16)項 イ 複合用途防火対象物のうち、その一部に(6)項ロの用途部分を含むもの
(16 の 2)項 地下街のうち、その一部に(6)項ロの用途部分を含むもの
引用:東京消防庁「防火対象物の用途による特定用途・非特定用途の分類」
収容人員30人以上の場合は下記の施設です。
(1)項
イ 劇場、映画館、演芸場又は観覧場
ロ 公会堂又は集会場
(2)項
イ キャバレー、カフェー、ナイトクラブその他これらに類するもの
ロ 遊技場またはダンスホール
ハ 性風俗関連特殊営業を営む店舗等
二 カラオケボックス、個室ビデオ等
(3)項
イ待合、料理店その他これらに類するもの
ロ 飲食店
(4)項 百貨店、マーケット、物品販売店舗又は展示場
(5)項
イ 旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの
(6)項
イ 病院、診療所、助産所
ハ
⑴ 老人デイサービスセンター、軽費老人ホーム(⑹項ロ⑴に掲げるものを除く。)、有料老人ホーム(⑹項ロ⑴に掲げるものを除く。)等
⑵ 更生施設
⑶ 助産施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童養護施設、児童自立支援施設、児童家庭支援センター等
⑷ 児童発達支援センター、情緒障害児短期治療施設、放課後等デイサービスを行う施設等
⑸ 身体障害者福祉センター、障害者支援施設(⑹項ロ⑸に掲げるものを除く。)、地域活動支援センター、福祉ホーム等
ニ 幼稚園、特別支援学校
(9)項
イ 蒸気浴場、熱気浴場等
(16)項
イ 複合用途防火対象物のうち,その一部が特定防火対象物の用途部分を含むもの(6)項、(16 の2)項を除く。)
(16 の 2)項 地下街(その一部に(6)項ロの用途部分を含むものを除く。)
引用:東京消防庁「防火対象物の用途による特定用途・非特定用途の分類」
上記の一覧を参考にして、消防設備点検の必要性を確認しましょう。
消防長または消防署長が指定した非特定防火対象物
非特定防火対象物は、特定防火対象物以外の収容人数が50人を超える建物です。具体的には下記の建物が該当します。
(5)項 ロ 寄宿舎、下宿又は共同住宅
(7)項 学校
(8)項 図書館、博物館、美術館等
(9)項 ロ 公衆浴場(蒸気浴場、熱気浴場等は除く)
(10)項 車両の停車場又は船舶若しくは航空機の発着場
(11)項 神社、寺院、教会等
(12)項
イ 工場又は作業場
ロ 映画スタジオ、テレビスタジオ
(13)項
イ 自動車車庫又は駐車場
ロ 飛行機又は回転翼航空機の格納庫
(14)項 倉庫
(15)項 前各項に該当しない事業場
(16)項 ロ イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物
(17)項 重要文化財等
引用:東京消防庁「防火対象物の用途による特定用途・非特定用途の分類」
非特定防火対象物は、利用者が限定されている建物や避難が簡単な建物も含まれます。
屋内に1つしか階段がない特定防火対象物
屋内に1つしか階段がない特定防火対象物を、特定一階段等防火対象物と呼びます。理解を深めるため、下記の図をご覧ください。
引用:東京理科大学 研究推進機構 総合研究院 火災科学研究所「特定一階段等防火対象物」
また、延べ床面積が1,000平方メートル未満の特定防火対象物の場合でも点検が必要です。屋内に1つしか階段がない建物も、消防設備点検は義務づけられています。
消防設備点検の種類と頻度
消防設備点検の種類と頻度について解説します。
- 6カ月に1度の機器点検
- 1年に1度の総合点検
それぞれの点検を実施し、消防設備に不具合が起こらない体制を構築しましょう。
6カ月に1度の機器点検
機器点検は6カ月に1度の頻度で行われます。主な点検項目をまとめました。
- 配線
- 消火器
- 誘導灯
- 警報器具
- 非常用電源
- 火災報知設備
消防設備の外観や設置場所に異常はないか、正しく使用されているかを、簡易的な操作でチェックします。
1年に1度の総合点検
総合点検は1年に1度行われます。一部、もしくはすべての設備を稼働させて、不具合を起こさずに使用できるかを総合的にチェックします。
実際に避難器具を降ろしたり、非常ベルを鳴らしたりするのが総合点検です。
建物の状況を正しく把握し、誠実に点検報告を実施しましょう。
消防設備点検の報告義務
消防設備点検の報告義務について3つ解説します。
- 報告の頻度
- 報告を怠った場合には罰則
- 報告書類の作り方と提出時のポイント
それぞれの注意点を見ていきましょう。
報告の頻度
消防設備点検の報告の頻度は、建物の種類ごとに変わります。報告の時期がきたら消防署へ点検結果書類を提出しないといけません。
大きく分けると・特定防火対象物・非特定防火対象物の2種類で頻度が異なります。
- 特定防火対象物:1年に1回
- 非特定防火対象物:3年に1回
具体的な用途別で報告の頻度を簡単にまとめました。
- 飲食店や店舗、オフィスビルなど:1年に1回
- マンションやオフィス、アパートなど:3年に1回
- 飲食店などの設備が付随したマンションなどの賃貸:1年に1回
また、建物に付随する設備によっても報告の頻度は変わりますので、報告と点検の頻度が違う点に注意しましょう。
点検自体は、機器と総合点検を合わせて1年に2回必要です。
報告を怠った場合には罰則
報告を怠ってしまうと罰則が科されます。
参考:総務省消防庁 「点検報告制度に係る罰則規定について」
虚偽の報告を行った者、又は報告しなかった者は、30万円以下の罰金又は拘留に処されます(法第44条)。
実際に罰則が課された例としては以下のような事例があります。
2018年には消防署から再三にわたる指導があったのに、不備箇所を直さずに実際に火災が発生してしまい1名の方(利用者)が亡くなられた事件がありました。その後、略式起訴となり、所有者と法人に対してそれぞれに罰金10万円の略式命令が下された事例もあります。
報告書類の作り方と提出時のポイント
消防設備点検の報告書類は、一般財団法人日本消防設備安全センターのホームページからダウンロードしたテンプレートで作成できます。様式は変更される場合があるため、複数枚のコピーはせずにその都度ホームページのPDFを使用しましょう。
提出先は通常、消防長か消防署長ですが、消防本部がない場合は市町村長に提出する必要があります。建物の所有者や管理者が自力で報告書作成、提出もできないことはないですが点検項目や正しく点検できているかなどはやはり専門知識を持った人でないと作成が難しいのが現状です。
消防設備点検の費用相場
消防設備点検の費用相場をまとめました。
<消防設備点検の費用相場概算>
建物の種類 | 費用相場 |
オフィス・雑居ビル | 30,000円 |
マンション・アパート | 35,000~約55,000円 |
個人病院 | 15,000円 |
大型の総合病院 | 300,000円 |
店舗・飲食店 | 20,000~約30,000円 |
老人ホーム | 60,000円 |
ビジネスホテル | 70,000円 |
※利用料金は税込
上記の建物でもサイズや設備によって費用は変わります。正確な費用を把握したい方は、専門企業に見積もりを取りましょう。
消防設備点検に関するよくある質問
消防設備点検に関してよくある質問を紹介します。
消防設備点検は誰が行うのですか?
消防設備点検を実施できるのは、基本的に消防設備士か消防設備点検資格者のみです。大きく分けて3種類の建物を点検します。
- 特定防火対象物
- 非特定防火対象物
- 特定一階段等防火対象物
3種類の建物以外の場合は無資格者でも点検可能です。しかし、設備の改修や整備は専門の資格が必要になるため、できる限り専門の業者へ依頼しましょう。
消防設備点検ではどのような設備を点検しますか?
消防設備点検で点検する設備と詳細をまとめました。
設備の種類 | 詳細 |
消火設備 | 消火栓、スプリンクラーなど |
警報設備 | 自動火災報知設備やガス漏れ警報器漏電火災警報器など |
消防用水 | 防水水槽、ため池、貯水池など |
消火活動上必要な施設 | 連結散水設備、連結送水管、排煙設備無線通信補助設備など |
避難設備 | 避難はしご、避難袋、緩降機誘導灯、誘導標識など |
上記の設備が滞りなく使用できるかを、総合点検では実際に稼働させてチェックします。
消防設備点検が年2回必要な根拠は何ですか?
消防設備点検が年2回必要なのは、消防法で定められているからです。消防法17条3の3により、点検と報告の頻度がそれぞれ定められています。
建物の種類 | 点検の頻度 | 報告の頻度 |
特定防火対象物 | 1年に2回 | 1年に1回 |
非特定防火対象物 | 1年に2回 | 3年に1回 |
※2024年8月18日現在
点検と報告の頻度を間違えないようにチェックしておきましょう。
消防設備点検は万が一に備えるための大切な義務
消防設備点検は、非常時の甚大な被害を抑えるための重要な義務です。火災時には、対応までの1分1秒の差が人命を左右します。万が一の事態に消防設備が稼働しなければ、被害の拡大は免れません。
また、消防設備は自衛のための設備でもあるので、普段から自分たちで使用できるようにという意識があるだけでも被害の大きさを変えることができるかもしれません。使い方や簡単な訓練なども一緒に教えてくれるような業者へ依頼することも大切です。
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