
非常用発電機は、災害時に電力会社からの電源がストップした際に、スプリンクラーや消火栓設備、自動火災報知機や非常用エレベーターなどに電源を供給する設備です。その役割は非常に重要で、人命の救助や被害の拡大防止につながります。この非常用発電機が災害時に正常に稼働するかどうかを確認するための試験が負荷試験であり、消防法で義務づけられています。この記事では、
・非常用発電機の負荷試験がいつごろから義務化されたのか
・消防法の改正により負荷試験が6年間免除になった条件
・負荷試験や点検の重要性や怠った場合の罰則
の3点について解説します。
この記事を読むことで、非常用発電機が果たす役割や、負荷試験の重要性などに関する理解が深まりますので最後まで確認してください。
非常用発電機の負荷試験はいつから義務化された?

非常用発電機の負荷試験は、1975年4月から施工された消防法により、下記内容にて義務づけられています。
<blockquote>
「消防用設備等や特殊消防用設備等が火災時にその機能を発揮することができるよう、防火対象物の関係者に対し、定期的な点検の実施と、その結果を消防署長等への報告を義務づけているもの」
</blockquote>
引用:総務省消防庁「消防用設備等点検報告制度について」
非常用発電機は、災害時や火災発生時に被害を最小限に抑えるためになくてはならない大切な設備であり、かなり以前からその重要性や必要性が重視されてきました。
自家発電設備として、1961年(昭和三十六年)自治省令外六号の消防法施工規定に基づき、自家発電設備の基準が定められています。
参照:総務省消防庁「自家発電の基準(昭和48年消防庁告示1)|告示」
消防庁の「点検基準」により1975年ごろから開始
具体的には、1975年(昭和50年10月16日付)の消防庁告知第14号の「消防用設備等の点検の基準及び消防用設備等点検結果報告書に添付する点検票の洋式を定める件」の中の第24項「非常電源(自家発電設備)の点検の基準及び点検票の別表第24及び別記様式第24」において、機器点検、総合点検の細かな基準を設定しています。
このように、約50年前から災害時に備えるための負荷試験が重要視されてきました。明確なデータこそないものの、そもそも非常用発電機を活用し始めたころから点検も行っていたことが推察されます。
参照:総務省消防庁「消防用設備等の点検の基準及び消防用設備等点検結果報告書に添付する点検票の様式を定める件」
参照:総務省消防庁「非常電源(自家発電設備)の点検の基準及び点検票 別表第24及び別記様式第24」
非常用発電機の負荷試験が必要である理由
非常用発電機は、名前のとおり災害時などの非常時に、消防設備や非常用設備に電源を供給して人命を救助し災害の拡大を未然に防ぐために重大な役割を果たします。また、非常用発電機の負荷試験とは年に1度の総合点検時に行う、非常用電源の動作や性能を確認する試験です。
災害時に停電となった際に、自家発電による適切な電源を供給することによって防災設備が正常に作動し、人命に関わる大きな被害を防げるよう、定期的に負荷試験を行うことが極めて重要です。
しかし、災害が起こらない平時には、非常時に備えて常に非常用発電機の管理や点検を行うことは難しく、どの程度の期間ごとに、どのような点検を行うべきかを明確にする必要があります。よって、緊急時に確実に役割を果たせるように、消防法により定期点検の期間や項目を明確化しています。
非常用発電機の負荷試験は初年度から義務である
非常用発電機の負荷試験は、初年度から実施するよう定められています。そもそも、消防法や電気事業法に基づく通常の点検は無負荷運転であるため、負荷となる機器を作動させる能力があるかどうかの確認ができません。
無負荷運転は、車で例えると車を動かさずに行うアイドリングテストのようなものです。実際に車を走らせなければ、タイヤやエンジン、サスペンションなどの異常はわかりません。非常用発電機の試験も同様で、負荷をかけることなく非常用発電機のエンジンやジェネレーターの状態は確認できないです。
現行の規定(1975年10月16日消防法告知第14号別表第24及び別記様式第24)で、負荷試験は1年に1度、消防設備の総合点検時に行うと定められています。製造されて設置されたばかりの非常用発電機についても同様で、1年目から試験を行う必要があります。
ただし、2018年の消防法改正により一定の条件を満たすことで、6年間は負荷試験が免除されることになりました。詳しくみていきましょう。
2018年に非常用発電機の負荷試験の周期の見直しを実施

2018年6月1日に公布された「平成30年消防庁告示第12号」により、それまで毎年行う必要があった非常用発電機の負荷試験の周期が改定されました。
具体的には、毎年予防的な保全策を行うことができれば、負荷試験は6年に1度の周期にしてもよいというものです。つまり製造より6年間は試験が免除されることになり、同様に、過去に負荷試験を行った非常用発電機も、試験を実施した日から6年間は試験をしなくてもよくなりました。
ただし、6年間免除されるためには、予防的な保全策を毎年行うという条件を満たさなければなりません。
負荷試験を6年に1度にするために必要な条件
負荷試験を6年に1度にするためには、運転性能に係る予防的な保全策が講じられていることが必要です。
【予防的保全策とは】
予防的保全策とは、非常用発電機の機能や性能に不具合が発生しないよう予防するための対策を講じることです。具体的な確認や交換についてまとめました。
・予熱栓、点火栓、冷却水ヒーター、潤滑油プライミングポンプがそれぞれ設置されている場合には1年ごとに確認
・潤滑油、冷却水、燃料フィルター、潤滑油フィルター、ファン駆動用Vベルト、冷却水等のゴムホース、パースごとに用いられるシール材、始動用の直電池等についてはメーカーが指定する推奨交換年内に交換が必要
予防的保全策だけではなく消防点検報告書の提出も必要
非常用発電機の負荷試験は予防的な保全策を行っていれば6年間免除されますが、消防設備の総合点検において点検自体は必要です。
消防設備の総合点検において、予防的な保全策を行った場合、行ったことがわかる書類を消防点検報告書に添付する必要があります。
出典:総務省消防庁「別記様式 非常用電源(自家発電設備)点検票」
このように、別記様式第24「非常電源(自家発電設備)点検票」では、補足として「当該点検項目の最終実施年月を備考欄に記入し、別表第24第2項⑹に規定する運転性能の維持に係る予防的な保全策が講じられている場合は、当該保全策を講じていることを示す書類を添付すること」と書かれています。
非常用発電機の負荷試験や点検の重要性
非常用発電機は、非常時の人命救助が大きな目的であるため、定期的な点検が義務づけられています
災害で停電になった場合に、非常用発電機が消防や避難に必要な設備を動かすために必要な電源を供給できないと、人命救助ができないだけでなく、被害が拡大してしまう可能性があるからです。そうならないよう、非常時にスプリンクラーや消火栓ポンプなどの防災設備が正常に稼働するかを負荷試験を実施で確認する必要があります。
ここでは、点検不足のために非常用発電機が作動しなかった事例や、負荷試験や点検を怠った場合の罰則について解説します。
点検不足で非常用発電機が作動しなかった事例がある
総務省消防庁は、東日本大震災時にメンテナンス不足が原因で、23台の非常用発電機が始動しなかった、あるいは停止したと発表しています。
非常用発電機が不始動・停止した原因は次のとおりです。
出典:総務省消防庁「東日本大震災における自家発電設備のメンテナンス不良による不始動・停止台数」
定期的な点検を行っていれば防げたケースがほとんどなため、日々のメンテナンスや点検が非常に重要なのです。
非常用発電機の負荷試験や点検を怠った場合の罰則について
非常用発電機の負荷試験や点検を怠った場合には罰則があります。消防法第44条11号では、非常用発電機の負荷試験や点検を怠る、あるいは虚為を報告するなどの行為に対して、建築物の所有者や管理者に300,000円以下の罰金もしくは拘留の処罰を定めています。
また、ここで注意しなければならないのは、消防法第45条3号により建築物の所有者や管理者だけでなく、管理を任されている担当者にも最高1億円の罰金及び刑事責任に問われる可能性があります。
参照:e-GOV法令検索「消防法」
このように、点検漏れに対して重い罰則があるのは、災害発生時に非常用発電機が正常に稼働することが、多くの人命救助や災害の早期回復のために必要不可欠だからです。
非常用発電機は定期的なメンテナンスを必ず行い、非常時に備えましょう。
非常用発電機の負荷試験に関するQ&A

非常用発電機や非常用発電機の負荷試験については、まだ知られていないことも多く疑問の声をよく耳にします。ここでは、非常用発電機の負荷試験に関する質問をまとめています。
負荷試験は誰でもできる?
非常用発電機の負荷試験は、誰でもできるわけではありません。
自家発電の点検整備においては「総合点検における運転性能の確認(負荷運転又は」内部観察等)については、必要な知識及び技能を有する者が実施することが適当であること。」と記載されています。
出典:総務省消防庁「消防用設備等の点検要領の一部改正について(通知)」
そのため、非常用発電機の負荷試験は、消防設備士または消防設備点検資格者に加えて自家発電設備の点検整備に必要な知識及び技能を有する者が行わなければなりません。
負荷試験にはどのくらい費用がかかる?
負荷試験にかかる費用の相場は非常用発電機の容量等によって異なりますが、1回あたり150,000〜200,000円程度です。20kW以下であれば150,000〜200,000円ほど、230kW異常であれば300,000〜500,000円ほどが目安です。
参考までに、テックビルケアの建物タイプ別の料金例をご覧ください。
非常用発電機の機種や容量によっても変わってきますので、お気軽にお問い合わせください。
非常用発電機を入れ替えるタイミングは?
非常用発電機は製造から15~20年程度で入れ替える必要があります。非常用発電機が安定して稼働できる期間は20年程度といわれていますが、制御機能などは15〜20年ほどで不具合が生じる可能性が高まるからです。
非常用発電機はビルの屋上などに設置されていることが多く、入れ替える際にはクレーンを使用するケースがほとんどなため、徹底した安全対策が必要です。仮に、人通りが多い場所で非常用発電機を入れ替える場合には、安全対策だけでなく車両の通行止めや交通規制、近隣住民への周知などを行わなければなりません。
また、業者によってはクレーンの楊重量を下げるため、非常用発電機を分解して搬出・搬入を行うケースもあります。現場で分解した既存の非常用発電機を搬出し、あらかじめ分解した非常用発電機を搬入し、現地で組み立てます。
手配や作業に時間がかかるため、15〜20年を目処に入れ替えについての計画も立てていきましょう。
非常用発電機を入れ替える際の注意点は?
非常用発電機を入れ替える時期の目安は約20年ですが、今ある非常用発電機を搬入し設置したのが20年前だとすると、まわりの環境が大きく変わっている可能性もあります。
たとえば、20年前にはなかった建物や電柱があることにより、考えていた従来のルートでは搬入、設置ができないケースが考えられます。そのため、事前に入れ替え時に障害となる物がないかどうか、もしある場合には新たな搬入ルートを考えるなど事前の検討が必要です。
また、消防法の改正によって非常用発電機の必要容量を求める計算式が変更されているため、新しい非常用発電機に必要な容量を確認しておくことも重要です。
非常用発電機の耐用年数はどのくらい?
非常用発電機の耐用年数には2つの基準があります。
減価償却を主眼とした「税法上の法定耐用年数」と、実際に使用可能な「国土交通省官庁営繕所基準での耐用年数」です。経理上の「税法上の法定耐用年数」は15年と定められており、「国土交通省官庁営繕所基準での耐用年数」は30年という耐用年数が規定されています。
「国土交通省官庁営繕所基準での耐用年数」が30年と長く規定されているのは、点検やメンテナンスを定期的に行いながら使い続けるため、長く使い続けられるだろうと考えられているからです。
しかしながら、非常用発電機は屋外に設置されている場合も多く、設置環境によっては風雨や塩害によって腐食も進みやすくなるため、30年の使用は困難な場合が多いです。
さらに、耐用年数を超えて非常用発電機を使用する場合、補修部品が手に入らず修理ができなくなるといったケースも考えられます。非常用発電機の入れ替えは15〜20年前後で検討することをおすすめします。
非常用発電機の負荷試験は安全のために義務化されている

非常用発電機は、災害時の人命救助や被害の拡大防止のために必要不可欠な設備です。非常時に正常に稼働する必要があるため、国は50年も前から負荷試験の点検を重要視し、義務づけてきました。当然、義務を怠った場合の罰則も大変厳しく定められています。
平時には、常に危機感を持って非常用発電機を管理することは難しいかもしれません。しかしながら、このような背景を鑑みて、いつ襲ってくるかわからない事態に備えるために、決められた頻度で非常用発電機の管理、点検、報告を必ず行いましょう。