災害時に火災が発生し、停電となった際など、非常用発電機の存在は欠かせません。消火栓やスプリンクラーなどの消防用設備、非常用照明や、非常用エレベーターなどの非常用設備に電力を供給することにより、緊急避難や被害の拡大防止につながるからです。このような非常時の備えとして、消防法では非常用発電機の負荷試験を義務づけています。この記事では、2種類ある非常用発電機の負荷試験の特徴とメリット・デメリットを解説します。この記事を参考に、防災への認識や非常用発電機の負荷試験の重要性と必要性に関する意識を深めていきましょう。
非常用発電機の負荷試験は実負荷試験と疑似負荷試験の2種類
災害等の非常時に備えるために国が義務づけている非常用発電機の負荷試験には「実負荷試験」と「疑似負荷試験」の2種類があります。
ここからは、非常用発電機の負荷試験の内容と2つの負荷試験の違いを説明します。
非常用発電機の負荷試験とは?
非常用発電機の負荷試験とは、非常用発電機を動かし、実際に負荷をかけて正常に作動するかどうかを点検する試験です。
非常用発電機はその名のとおり、非常時にしか使用しないため肝心なときに異常なく作動するかどうかを点検する必要があります。災害時に非常用発電機が正常に作動しないと、被害が甚大になり、人命にも関わるため国は非常用発電機の負荷試験の実施を義務づけています。
実負荷試験と疑似負荷試験の違い
・実負荷試験
非常用発電機を使い非常時に電力を供給する設備(消火栓・スプリンクラー・エレベーターなど)を実際に動かした状態で、非常用発電機に異常がないかを確認する点検方法です。
・疑似負荷試験
有事の際に非常用電力を供給する設備(消火栓・スプリンクラー・エレベーターなど)を動かす電力と同じくらいの電力負荷をかけて非常用発電機が正常に作動するかどうかを確認する点検方法です。
点検方法 | メリット | デメリット |
実負荷試験 | ・非常用発電機と非常時に稼働が必要な設備もまとめて点検できる | ・施設を停電させる必要がある・電力負荷が安定しない・各設備に人員が必要となる |
疑似負荷試験 | ・停電の必要がない・一定の負荷をかけ続けられる・少ない人数で点検が可能・エンジン内部のカーボンを除去できる | ・非常時に稼働が必要な設備の点検は同時にできない |
それぞれのメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。
非常用発電機の負荷試験「実負荷試験」のメリット・デメリット
まずは、非常用発電機の実負荷試験のメリット・デメリットについて解説します。
実負荷試験のメリット
実負荷試験では、非常時に稼働が必要な設備である消防用設備やエレベーターを実際に停電をさせてみてテストします。これにより、非常用発電機の動作確認だけでなく、連動している設備に異常がないかも同時にチェックできます。具体的には、非常用発電機の性能を確認するだけでなく、施設の重要な設備が非常時に適切に機能するかどうかを総合的に確認できます。例えば、停電時に非常用エレベーターが正常に稼働するか、消防用スプリンクラーが適切に作動するか、などです。
実負荷試験のデメリット
実負荷試験のデメリットは、次の3点です。
・施設の停電が必要となり、営業や運営に支障が生じる
・使用電力が一定でないので試験結果が正しく出ないことがある
・設備ごとに業者に点検を依頼する必要があるためコストと時間がかかる
順に説明します。
・施設の停電が必要となり、営業や運営に支障が生じる
実負荷試験を行うためには、一時的に館内を停電させる必要があります。これは、自家発電機を稼働させる際に、館内の消防用設備やエレベーターに負荷をかける必要があるからです。病院や多くの人が利用する施設では、停電が難しい場合があります。例えば、医療機関では患者の安全確保のため、停電が許されないことが多く、実負荷試験の実施が困難です。
・使用電力が一定でないので試験結果が正しく出ないことがある
館内の設備を動かしながらの試験となるため、負荷を一定に保つことが困難です。消防法では定格出力の30%以上の負荷が推奨されていますが、実負荷試験ではこれを維持するのが難しいことがあります。例えば、エレベーターの使用状況や消防用設備の稼働状況により、負荷が変動しやすく、安定した試験環境を維持するのが困難だからです。
・設備ごとに業者に点検を依頼する必要があるためコストと時間がかかる
各設備に負荷をかけて動作確認を行うため、多くの人手が必要です。これにより人件費が増加します。具体的には、各設備の監視や操作を行うために多くの各点検会社との調整や依頼が必要となり、作業費や時間的なコストがかかります。
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非常用発電機の負荷試験「疑似負荷試験」のメリット・デメリット
次に、非常用発電機の疑似負荷試験のメリット・デメリットについて説明します。
疑似負荷試験のメリット
疑似負荷試験のメリットは次の4点です。
・停電の必要がない
・安定した負荷電力を維持できるため、試験結果が信頼できる
・費用や時間のコストの削減
・エンジン内のカーボン除去が可能
以下で、停電を伴わないことや試験結果の信頼性、コスト削減、エンジンのカーボン除去など各メリットについて詳しく説明します。
・停電の必要がない
疑似負荷試験では、非常用発電機を館内の設備から切り離し、非常時に使用する電力を使用しているのと同じ状態を再現することができる疑似負荷装置を使用します。これにより、施設を停電させることなく負荷試験を実施できます。例えば、病院など停電ができないところ、商業施設やオフィスビルなど、停電による影響を最小限に抑えることが求められる環境でも、疑似負荷試験は実施できます。
・安定した負荷電力を維持できるため、試験結果が信頼できる
非常用発電機の疑似負荷試験では、定格出力の30%以上の負荷を安定してかけることができます。これは、消防庁が推奨する負荷条件を満たしつつ、定格出力での試験を可能にします。その結果、発電機の性能を最大限に引き出し、信頼性を確保できます。さらに、疑似負荷試験では設定された条件で安定した負荷を維持できるため、試験結果の信頼性が高まります。
・費用や時間のコストの削減
非常用発電機に疑似負荷試験装置を繋いで負荷試験を行うので各設備を監視する必要がなく、少人数で対応できます。これにより、作業費や各業者への依頼、また調整などの時間のコスト削減が可能です。
・エンジン内のカーボン除去が可能
高負荷でエンジンをかけるので、無負荷試験などで蓄積されたエンジン内部の未燃焼燃料やカーボンを燃焼させて除去できます。実負荷試験では高い負荷をかけるのが難しいため、これは疑似負荷試験の大きな利点です。具体的には、こうして年に一度メンテナンスとしてエンジンの内部をクリーンに保つことで、非常用発電機の長期的な性能の維持が期待できます。
疑似負荷試験のデメリット
疑似負荷試験のデメリットは、非常時に稼働が必要な設備の点検を同時に行えないことです。館内の設備から切り離して試験を行うため、各設備の点検は別途行う必要があります。
具体的には、疑似負荷試験の実施中に消防用設備やエレベーターなどの館内設備の動作確認をすることはできません。したがって、停電になったときのそれぞれの設備が非常電源で動くかどうかというのは各設備ごとに確認する必要があります。しかし、通常は決まった周期でそれぞれの業者が点検しているため、それで困ることはあまりありません。
非常用発電機の負荷試験は実負荷試験よりも疑似負荷試験が主流
実負荷試験と疑似負荷試験のそれぞれの特徴を説明してきましたが、現在では、コストや手間が少なくメリットが多い最新式の疑似負荷試験が主流となっています。
病院や施設など停電ができないところでも問題なく点検が行えることが大きな理由として挙げられます。他にも少人数での対応が可能であるため費用も軽減できる、時間も比較的短時間で行えるなどの理由から実負荷試験よりも疑似負荷試験がより多く採用されています。
点検方法 | 人員 | 作業時間 | 建物の停電 | 負荷試験の費用 |
実負荷試験 | 5名以上 | 半日~1日 | 必要 | 高額 |
疑似負荷試験 | 2名程度 | 2~3時間程度 | 不要 | 低額 |
非常用発電機の負荷試験の実施頻度
非常用発電機の負荷試験の実施頻度については以下のとおりです。
・非常用発電機の負荷試験は基本的に1年に1回必要
・非常用発電機の負荷試験の代わりの内部観察は1年に1回必要
・予防的保全を1年に1回実施すると策非常用発電機の負荷試験は6年に1回
それぞれの負荷試験の実施頻度とその重要性について詳しく説明します。
非常用発電機の負荷試験は基本的に1年に1回必要
非常用発電機の負荷試験は消防法により1年に1回行うことが定められています。1年に1回の点検報告によって、非常用発電機が正常に動く状態であると消防署へ報告が必要になります。
ただし、稀ではありますが、実負荷試験・疑似負荷試験と各々に以下のような場合は実施できないことがあります。
実負荷試験 : 負荷運転を行う際に、商用電源を停電させなければ実負荷による点検ができない
疑似負荷試験: 自家発電設備が屋上や地下に設置されており、疑似負荷装置の配置が困難で、疑似負荷試験が行えない
上記の問題を解決するために、2018年6月1日に消防庁が義務づける自家発電設備の点検方法が改正されました。
ある特定の条件を満たせば、負荷試験に代わる方法でも点検ができる、または負荷試験の周期が6年に1回でも可能となる場合があります。
続いて、その条件について具体的に紹介していきます。
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非常用発電機の負荷試験と内部観察
非常用発電機の内部観察とは、点検基準の改正の際に追加された負荷試験の代替えの点検方法です。
部品の分解作業により発電機のコンプレッサーやタービン・シリンダーなどのエンジン内部を点検し、異常が見つかった場合は交換します。
内部観察を行えば、負荷試験は必要ないとされています。ただし、負荷試験が2〜3時間で終わるのに比べて、内部監察では2〜3日と時間や費用が多くかかること、また報告書の作成や消防署への報告が結局必要になるため、従来どおりの負荷試験を実施することが殆どです。
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非常用発電機の負荷試験と予防的保全策
予防的な保全策とは、非常用発電機の不具合や欠陥が生じる前に、各部を定期的に点検し、必要に応じて部品の交換等の対策を講じることです。具体的には、予熱栓、点火栓、冷却水ヒーターなどの部品の確認や、潤滑油、冷却水、燃料フィルター、潤滑油フィルター、始動用蓄電池などをメーカーが指定する推奨交換期間内に交換するなどの作業を指します。
予防的な保全策を1年に1回行うことで、1年に1回実施の必要がある負荷試験の頻度を6年に1度に延長することが可能となりました。
ただし、負荷試験を6年に1度に延長するための予防的な保全策は、毎年実施する必要があり消防への報告も必要です。
1回あたりにかかる時間もコストも負荷試験よりかかってしまうケースがあるという点には注意が必要です。
疑似負荷試験の流れ
これまで、非常用発電機の負荷試験は、疑似負荷試験の方が停電の必要もなく、時間やコストなど多くの点でメリットがあるとお伝えしてきました。
ただ、点検業者によっては対応できる負荷試験が限定される場合があります。点検を依頼する際は、疑似負荷試験の対応が可能かどうか、また消防署への提出を行ってくれるかどうかをまず確認しましょう。
次に疑似負荷試験の具体的な流れについて詳しく解説します。
疑似負荷試験の依頼先を決めるポイントについて
疑似負荷試験は消防設備がある場合、消防設備点検と同時に実施されることが多く、同時に消防署への報告書提出が必要になります。消防設備点検もワンストップで施工できる業者をおすすめします。
また、見積りの際に消防署への提出代を含まない場合もあるので、そこも確認しましょう。
依頼するのに準備しておくべき情報
まず点検をお願いしたい業者が見つかったら、見積りの問合せフォームや電話などで見積依頼をします。その際にもし前回の負荷試験の報告書があればスムーズに情報を伝えられますので手元に用意しておきましょう。また、発電機の容量(KWA・KVA)や設置階などを聞かれるので、事前に把握しておきます。見積りの金額に納得がいけば発注→日程調整という流れになります。
疑似負荷試験を実施する
当日は、点検作業に2〜3名が来所し、疑似負荷試験装置を自家発電機に接続して試験を開始します。停電の必要もなく、時間も2〜3時間で終了します。立会いがない場合、事前に屋上など鍵の受け渡し方法などを打ち合わせておきましょう。また、負荷試験は車のエンジンを終始かけているような状態なので、場所によってエンジン音や排気ガスが気になる方もいます。
報告書の受け取り
点検が終わったら点検した業者が報告書を作成、郵送かデータで受け取ります。管轄の消防署へ郵送か持参で提出が必要になります。消防署への提出が値段に含まれているか事前に確認しましょう。自分で消防署へ提出もできますが、訂正や書類に不備があった場合に点検業者に最初からしてもらう方がスムーズでおすすめです。消防署へ提出、返送された報告書は副本として手元で保管が必要です。消防署の査察が入った時などに閲覧を求められることがあります。
非常用発電機は負荷試験で定期的な点検を
非常用発電機は、定期的な点検が後回しになってしまうことが多いです。普段、停電などの非常事態が発生しない限り使用する機会がほとんどないため、どうしても意識が低くなりがちです。
しかし、地震や水害など災害の多い日本では、いつ私たちの周りが危機的な状況に陥るか分かりません。有事に備える非常用発電機の重要性は非常に高いです。
実際に災害が起こり、停電となった際に被害を最小限に抑えるためにも、非常用発電機の定期的な点検を必ず行いましょう。